レコードを買い続けてしまう人のブログ。
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PETE LA ROCA|BASRA


中古レコード店で何度か挨拶を交わしたことがあったご年配ジャズファンの方と、先日じっくり話をする機会があった。最近よく聴いているジャズ、探しているレコード、使用しているオーディオ機器、普段足を運んでいる中古レコード店の入荷状況…。情報交換・意見交流の有意義な場となった。

会話のなかで印象深かったのが、その方のリスニングに対する心構え。日常的なリスニングの際に、どんなレコードでも「初めて聴くつもりで」楽しむそうだ。例えば100回聴いたレコード。頭のなかで隅々まで再生できるほどに繰り返し聴き込んだ作品でも「初めて聴くつもりで」楽しむという。意外な発見や新たな感動を得ることが多いと嬉しそうに話されていた。

前回の記事で取り上げた『ページ・ワン』でドラムを叩いていたのがピート・ラロカ(ds)。彼の初リーダー作がブルーノート盤『バスラ』だ。録音は1965年。フロントにジョー・ヘンダーソン(ts)、リズムセクションにスティーヴ・キューン(p)&スティーヴ・スワロウ(b)を迎えたカルテット。とても好きな作品で50回は聴いたレコードだけれど、今夜は「初めて聴くつもりで」楽しんでみよう。



A1「マラゲーニャ」。スパニッシュ風の旋律を奏でるキューン(p)、低音部を揺るがすスワロウ(b)、呪術的な複合リズムを叩き出すラロカ(ds)…。冒頭から厳粛な空気が押し寄せる。異国情緒と共に。フラジオ音を織り交ぜたアクの強いブロウで吠え上がるジョーヘン(ts)が加わるや、演奏はうねるように荒れ狂う。同演奏において印象的なのがラロカ(ds)のドラミング。エルヴィン・ジョーンズ(ds)にも通じるポリリズミックな打法や、突き刺さるような鋭いシンバルワーク。3/4拍子のモーダルな曲調をより一層引き立てている。

A2「キャンデュ」。鬼気迫るようなA1から一転、中近東的なフィーリングが漂うエキゾチックなブルースへと続く。どことなくセロニアス・モンク(p)の作風にも通じる歪んだテーマが怪しげに響き渡る。ソロ先発はジョーヘン(ts)。中域から高域へと急上昇するようなお得意のフレージングを織り交ぜつつ序盤を盛り上げる。続くキューン(p)はブロックコードの連打を組み合わせたファンキーなプレイ。ラロカ(ds)はリズムを隆起させるかのような躍動感溢れるドラミングで背後からメンバーを煽る。じわりじわりと。

A3「ティアーズ・カム・フロム・ヘヴン」。A2に続きラロカ(ds)のオリジナル。段階的に上昇下降するマイナー調のコード進行が印象的。スワロウ(b)の前のめりなベースライン、ラロカ(ds)のスリリングなシンバルワーク、ジョーヘン(ts)の黒々としたテナー、キューン(p)の硬質な鍵盤…。カルテットがうねるように疾走する密度の濃い演奏だ。

B1「バスラ」。イラク南部に位置する都市の名前が付けられたラロカ(ds)のオリジナル。幕開けはスワロウ(b)のベースソロ。夏季の乾燥した大地を連想させる太く強靭な響きが低音部をうごめく。約1分後。ラロカ(ds)→キューン(p)→ジョーヘン(ts)が順に加わるや中近東的なムードが充満。テーマからソロパートへと、縦横にうねるようにジョーヘン(ts)が咽び泣く。ラロカ(ds)は背後から緩急強弱をつけた不規則なパルスを注ぎ込む。対照的に、キューン(p)は透明感のある神秘的なタッチでその中間を漂う。ゆらゆらと。

B2「レイジー・アフタヌーン」。本作に収録されている唯一のスタンダード。すぐに思い出すのはグラント・グリーン(g)のブルーノート盤『シェイズ・オブ・グリーン』での穏やかな演奏だが、ここでは時計の針が止まったかのようなゆったりと静かな、そして精神性の高い神秘的なバラードに仕上がっている。同演奏での主役はジョーヘン(ts)。哀切を含んだテーマを彩る艶かしい音色、消え入るようにひっそりと響くサブトーン、中域から高域へと段階的に上昇していくロングトーン…。極上のバラードだ。

B3「エイダーダウン」。ラストはスワロウ(b)のオリジナル。物憂くも愛らしい旋律が印象的なミディアムテンポの4ビート。テーマからソロへ。まずはジョーヘン(ts)が序盤を彩る。まろやかなフレージング、うっすらと哀愁を漂わせた野太い音色、時には大胆不敵な節回しを交えつつ豪快に。続くキューン(p)は独特な間と知性的なタッチが栄える軽快なソロ。時折パーカッシヴなコンピングを織り交ぜつつ流麗に。背後を彩るのはラロカ(ds)の小気味よく端正なシンバルワーク。メンバーの個性が光る好演奏と言えるだろう。


ほんの少しの心構えで、いつもの『バスラ』がいつもより新鮮に感じられた。「初めて聴くつもりで」という心構えは、リスニングに際して、背筋を正すようなピリッとした緊張感を与えてくれるだけではなく、ジャズの即興性を感じるという行為において、それこそが純粋な楽しみ方なのかもしれないと思った。


PETE LA ROCA|BASRA (Amazonで試聴できます)

Joe Henderson(ts) Steve Kuhn(p) Steve Swallow(b) Pete La Roca(ds) 1965年5月21日録音

Side A
Malaguena
Candu
Tears Come From Heaven

Side B
Basra
Lazy Afternoon
Eiderdown

vinyl details
BLUE NOTE (BLP4205)・MONO・NEW YORK・VAN GELDER・EAR